最近の株価評価運用④—オントロジーで銘柄同士の関係を見る


最近の株価評価運用④—オントロジーで銘柄同士の関係を見る

銘柄オントロジーの流れ

前回までは、日次100銘柄の選び方、一目シグナルの検証運転、テーマヒートの考え方を整理した。今回は、さらに一段階進めて「銘柄同士の関係」をどう扱うかを書く。

通常のスクリーニングでは、銘柄はそれぞれ独立した行として扱われる。コード、社名、業種、PBR、ROE、売買代金、スコア。これは表計算としては扱いやすいが、「この会社はどのテーマに露出しているのか」「競合は誰か」「どの銘柄の評価から次に調べるべき銘柄が見つかるのか」は表の列だけでは表現しにくい。

そこで最近の評価基盤では、軽量なオントロジーを入れている。ここでいうオントロジーは、難しいRDFやOWLではなく、銘柄・テーマ・競合関係をノードとエッジとして保存する小さな知識グラフだ。

> 本記事は評価システムの設計メモです。オントロジーは投資判断を自動化するものではなく、追加調査の入口を増やすための補助レイヤーです。

なぜオントロジーが必要か

個別銘柄評価には限界がある。ある会社の事業スコアが高いことは分かっても、その会社が属するテーマ、競合、周辺銘柄が構造化されていなければ、次の調査へつながりにくい。

たとえば、AIエージェントがある会社の評価要約で「M&A仲介」「増配・株主還元」「公共投資」といったテーマを書いたとする。文章として保存するだけなら人間は読める。しかし、横断集計はしづらい。どのテーマが多くの銘柄に出ているのか、どの競合が何度も参照されているのか、未評価だが関連性の高い銘柄はどれかを機械的に出すには、関係を表として保存する必要がある。

保存する関係は2種類から始める

初期スコープでは、関係を絞っている。

  • `exposed_to`: 銘柄がどのテーマに露出しているか
  • `competes_with`: どの企業と競合しているか

供給先、顧客、イベント波及なども面白いが、最初から広げると幻覚リスクが上がる。特に中小型株は公開情報が薄い。根拠の弱い取引関係をAIがもっともらしく出してしまう可能性があるため、まずは比較的取りやすいテーマと競合に限定している。

直近DBでは、有効なテーマエッジが825件、有効な競合エッジが555件保存されている。テーマでは「増配・株主還元」「中期経営計画」「原材料価格変動リスク」「自己株買い」「業績上方修正」などが多く出ている。

入力は評価済みの情報を再利用する

オントロジー抽出では、いきなりWeb検索だけに頼らない。主入力は、すでにAIが銘柄評価で作った要約、カタリスト、リスクだ。これらは評価時点でWeb検索や開示確認を通っているため、再利用価値が高い。

抽出対象には、銘柄名、業種、財務サマリー、最新の評価要約、既存テーマ語彙を渡す。既存テーマ語彙を渡すのは、表記ゆれを減らすためだ。「株主還元」「増配・株主還元」「自社株買い・増配」が乱立すると、テーマ集計が崩れる。既存表記に寄せるだけで、後のダッシュボードがかなり見やすくなる。

evidence必須にする

AIに関係抽出をさせるとき、最も重要なのは「根拠のない関係を出させない」ことだ。そこで、各テーマ・競合には必ずevidenceを持たせる。根拠の一文が書けない関係は出さない。

さらに、confidenceはhigh、medium、lowの3段階に限定している。自由な確信度表現を許すと、比較できなくなる。出力形式もJSONに固定し、テーマ名は12文字以内、テーマ最大5件、競合最大5件に制限する。

このような制約は、AIの自由度を下げるためではなく、あとで機械処理できる形にするためのものだ。

追記型にして失効管理する

オントロジーのエッジは削除しない。新しい抽出結果を追記し、再抽出で出てこなかった既存エッジには `valid_to` を入れて失効させる。

この設計にすると、過去の関係がいつ有効だったかを追える。事業内容や競争環境は変わる。ある時点では妥当だったテーマが、数か月後には弱くなることもある。上書きだけで消してしまうと、その変化を検証できない。

消費側、つまりダッシュボードや日次レポートは、基本的に `valid_to IS NULL` の有効エッジだけを見る。履歴は残しつつ、通常表示は現在有効な関係に絞る。

どこで使っているか

オントロジーは、すでに日次レポートの「関連評価スコア上位」に使っている。高評価銘柄の競合やテーマ隣接から、まだ評価していない銘柄を候補として出す。

これにより、単純な定量スコア上位だけでは拾いにくい銘柄が見つかる。たとえば、あるテーマで評価の高い会社が見つかったとき、その競合や周辺銘柄も見ておく価値がある。オントロジーは、その「次に見るべき候補」を機械的に作るための地図になる。

ダッシュボードでも、銘柄詳細にテーマや競合を表示できる。個別評価文を読む前に、その会社がどの文脈に置かれているかを把握しやすくなる。

注意点

オントロジーは便利だが、過信してはいけない。AI抽出には幻覚がある。名寄せにも限界がある。競合企業名が出ても、証券コードへ一意に解決できないことがある。実際、直近の有効競合エッジ555件のうち、証券コードまで解決できているものは253件だった。

これは失敗というより、現実的な制約だ。日本企業の社名表記は揺れ、上場市場の範囲もあり、事業競合は必ずしも一対一で明確ではない。だからこそ、confidence、evidence、resolvedを分けて保存する。

まとめ

銘柄評価にオントロジーを入れると、個別銘柄の点数だけでなく、テーマや競合の文脈を扱えるようになる。重要なのは、最初から大きな知識グラフを作ろうとしないことだ。まずはテーマと競合に絞り、根拠必須、語彙制限、追記型、失効管理で小さく始める。

次回は、評価スコアの重みをどう改善していくかを扱う。強化学習という言葉は大げさに聞こえるが、実際には売買AIではなく、biz、value、momentumの重みを事後成績で少しずつ調整する仕組みとして使っている。


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