最近の株価評価運用③—テーマヒートで市場のまとまりを見る

前回は、一目均衡表シグナルを採点に混ぜる前の検証運転について書いた。今回は、最近の株価評価基盤に追加したもう一つの方向性として、個別銘柄ではなく「テーマのまとまり」を見る仕組みを取り上げる。
日次評価では、全銘柄の定量スコアとAI深掘り評価を保存している。これは個別銘柄を見るには便利だが、市場全体で何が温まっているかを知るには少し粒度が細かすぎる。半導体、生成AI、建設・国土強靱化、M&A・事業承継、株主還元のようなテーマ単位で見ると、個別銘柄ランキングだけでは見えない動きが出てくる。
> 本記事はテーマ検出システムの設計メモです。テーマヒートは売買推奨ではなく、追加調査の優先順位を決めるための補助指標です。
個別銘柄スコアだけでは見えないもの
個別銘柄のスコアは、ある会社の魅力度を比較するには役立つ。一方で、同じ日に複数の銘柄が似た方向へ動いている場合、個別スコアだけでは「市場がどのテーマを見ているか」を捉えにくい。
たとえば、あるテーマに属する銘柄の多くが少しずつ上がっている場合、個別銘柄の急騰ランキングには出ないかもしれない。しかし、そのテーマ全体では資金が流入している可能性がある。逆に、一部の大型銘柄だけが上がっているなら、テーマ全体が強いとは言い切れない。
そこで、テーマ単位で次のような指標を集計する。
- 市場平均との差を見た5日・20日・60日の超過リターン
- テーマ内で値上がりしている銘柄の広がり
- テーマ内銘柄同士の相関
- 売買代金シェアの変化
- テーマ構成銘柄数
これらを横断的に見て、テーマヒートとして保存する。
テーマ辞書を作る
テーマヒートの前提は、テーマと構成銘柄の辞書だ。J-Quantsの業種分類だけでは、一般的な市場テーマを表現しきれない。業種分類は「電気機器」「サービス業」「建設業」のような枠であり、「生成AI」「データセンター」「株主還元」「M&A・事業承継」のような横断テーマとは粒度が違う。
そのため、テーマ辞書を別テーブルとして持つ。テーマ名、別名、カテゴリ、状態、構成銘柄、根拠、信頼度を分けて保存する。既存の銘柄オントロジーは参考にはするが、同じテーブルへ混ぜない。これは、銘柄起点の関係抽出とテーマ起点の構成管理で、更新セマンティクスが違うためだ。
実運用では、アクティブなテーマが21件あり、日次のテーマヒートテーブルには100件超の行が保存されている。まだ構成銘柄が少ないテーマは、ヒートスコアを出さずに監視対象として残す。少数銘柄の偶然の値動きでテーマが過熱して見えることを避けるためだ。
ヒートスコアの材料
テーマヒートは一つの魔法の点数ではない。複数の材料を重み付きでまとめた補助指標だ。
一つ目は超過リターン。市場全体の動きに対して、そのテーマの構成銘柄がどれだけ強いかを見る。単純な上昇率ではなく、市場平均との差を見ることで、全体相場が強い日とテーマ固有の強さを分けやすくする。
二つ目は広がり。テーマ内の一部だけが上がっているのか、多くの構成銘柄が上がっているのかを見る。広がりがあるテーマは、個別材料ではなくテーマとして見られている可能性が高い。
三つ目は相関。テーマ内の銘柄が同じ方向に動きやすくなっているかを見る。相関が上がると、市場参加者がその銘柄群を同じテーマとして扱っている兆候かもしれない。
四つ目は売買代金シェアの変化。価格だけでなく、資金量が増えているかを見る。値上がりしていても売買が薄い場合と、売買代金が増えている場合では意味が違う。
直近の観測例
直近のテーマヒートでは、構成銘柄数が十分なテーマとして、生成AI、M&A・事業承継、建設・国土強靱化、株主還元・自社株買いなどが並んでいた。
2026-08-20時点では、生成AIがヒート上位に出ていた。構成銘柄数は5件で、値上がりの広がりや売買代金シェア変化が寄与している。一方で、ヒートスコア自体は過熱と呼ぶほど高い水準ではなく、イグニッション判定も出ていない。
この「上位だが過熱ではない」という表現が大切だ。テーマヒートは、テーマを煽るためのものではない。むしろ、ランキング、スコア、イグニッションを分けて記録することで、まだ観察段階なのか、急に熱量が上がったのかを区別する。
イグニッション判定
テーマヒートには、単日の順位だけでなく、前回からの変化を見るイグニッション判定もある。ヒートスコアが一定以上で、かつ数営業日前から大きく上がった場合に、テーマが点火した可能性として扱う。
これにより、もともと強いテーマと、急に注目され始めたテーマを分けられる。長く強いテーマは継続監視、急に立ち上がったテーマは追加調査、というように用途が変わる。
ただし、イグニッションも売買シグナルではない。構成銘柄が少ないテーマ、ニュース一発で動いたテーマ、低流動性銘柄に偏ったテーマでは、ノイズが大きくなる。だからこそ、構成銘柄数の下限や、売買代金シェア、相関の確認が必要になる。
週次予測と事後検証
テーマヒートの先には、週次のテーマ予測がある。直近4週のヒート推移、イグニッション、既存テーマ一覧を入力にして、次に注目されそうなテーマ候補をAIで出す。ただし、予測は即アクティブ採用しない。新しいテーマは候補状態に置き、構成銘柄や根拠を確認してから日次計測へ乗せる。
さらに、予測したテーマは後から検証する。20営業日後、60営業日後に、ヒートが上がったのか、順位が改善したのか、構成銘柄の超過リターンはどうだったのかを見る。予測を出しっぱなしにせず、結果を別テーブルへ保存する。
ここはAIエージェント運用で特に重要な部分だ。AIの予測文は説得力があるように見えやすい。だから、予測した日、根拠、信頼度、構成銘柄、結果を機械的に残し、あとから当たったかどうかを見られるようにする。
個別評価とのつなぎ方
テーマヒートは、個別銘柄評価を置き換えるものではない。むしろ、個別評価の入口を増やすものだ。
テーマが温まっているなら、その構成銘柄の中でまだAI評価していないものを優先する。過去にC評価だった銘柄でも、テーマ全体の資金流入が強まっているなら再確認する。逆に、個別スコアが高くてもテーマ全体が弱い場合は、銘柄固有の理由を確認する。
つまり、個別評価とテーマ評価は上下関係ではなく、相互に補完する関係だ。個別評価は企業の質を見る。テーマヒートは市場の見方を見る。両方を保存しておくと、後から「なぜその銘柄を見たのか」を説明しやすくなる。
まとめ
最近の銘柄評価基盤では、日次100銘柄の選定、一目シグナルの検証運転、テーマヒートの追加という三つの改善を進めている。今回のテーマヒートは、個別銘柄の点数だけでは見えにくい市場のまとまりを補うレイヤーだ。
重要なのは、テーマを見つけること自体ではなく、テーマ辞書、構成銘柄、ヒートスコア、イグニッション、予測、事後検証をすべて保存することだ。AIに予測させるなら、なおさら後から検証できる形にしておく必要がある。
これで、前回の基盤記事から続く形で、最近の運用アップデートを3回に分けて整理できた。次に書くなら、実際のダッシュボード画面や通知文を題材に、日次運用者がどこを見ればよいかをまとめる予定だ。
